長野県 小布施 枡一客殿

2016年09月20日〜2016年09月21日

栗を食べに小布施に通うようになって4年経った。

ネットで偶然に知った「朱雀(すざく)」という栗のお菓子。素晴らしく美しく、とれたばかりの新栗をたっぷりと使い、蒸したてをニュウっと絞り出した、モンブランにもにたこのお菓子は、惚れ惚れと見とれるほどだ。

一年のうち栗の収穫がある9月中旬から1ヶ月あるかどうかの超限定お菓子であり、おまけにデリケートすぎる為「持ち帰り不可」という難関。買って帰る事ができないならば、現地のお店で食べるしかない・・・。どうやったら食べられるかを調べると、なんと、シーズン中は早朝から店先に並んで「整理券」を入手する必要があるらしい。東京から、お店のある小布施(おぶせ)まで渋滞がなくても4時間はかかる。朝8時でも整理券の列は長蛇と聞き、当日の朝に家を出発したのでは一生食べられないお菓子と判明する。どうしても食べたい!どうしたらよいか・・・そうだ、店のある小布施に泊まればいい! そしてこの「朱雀」を作るお店がなんと旅館まで経営していると知り、それ以来、毎年予約を入れるようになった。

小布施のインターを降り、栗畑とりんご畑の中を進むと、こじんまりだが、歴史を感じさせる重々しい旧家が並ぶ美しい町並の中に入り込んだ。町は整い花の彩りが素敵だ。小布施は「スニーカーサイズ」と言われるよう、とても小さく、駐車場にも限りがある。桝一客殿も専用の駐車場を持たない為、契約する駐車スペースが年によって微妙に変わったりする。宿の人は丁寧に説明してくれるが、この時期は観光客でごった返している為、狭い道はまるで歩行者天国状態(歩行者天国ではないです)。人を押し分けかき分けして、車を駐車場に入れるまでは緊張する。

その秋の行楽客で溢れかえっている町の中心地で、重厚な異彩を放つのが今日の宿「桝一客殿」。栗菓子の生産販売のほか、造り酒屋、食事処を経営する小布施堂が運営する。黒塗りの入口は引戸か?押すのか引くのか?どこが取っ手か? 歴史のある「和」のようでいて、そうではなく、「洋」のようでもあるが、そうではない・・。なんとも不思議なデザインである。どれ一つとっても「へぇ〜?」と言ってしまいそうだ。同じ長野県内から移築した3楝の土蔵を中心に7楝の木造家屋から構成されている。建築家ジョン・モーフォード氏が「小布施に来たら、こんな所に泊まりたい」という思いを具現化した作品だそうで、なるほど和でも洋でもない、不思議な空間は外国人の感性が生み出したものだったのか・・・。

奥まった内陸にある「小布施」は、小さいながらも、活気がある。栗の町であり、酒の町であり、葛飾北斎が長逗留をし、多くの作品を残していった町でもある。当時、既に財をなし豪商であった小布施堂の12代目が是非にいらしてくださいと北斎を呼んだのが、その発端だったとか。その当時から小布施に生きる人達は外界に偏見や畏怖を持つこと無く、間口を大きく開き、頭がフレキシブルだったのかもしれない。

小布施堂傘下の造り酒屋、枡一市村酒造場の取締役だったのが、かのセーラ・マリ・カミングスさん。小布施堂の取締役を兼ね、自身が立ち上げたコンサルティング会社の社長も務めるなど、才が溢れる素敵な女性だ。アメリカ出身、欧米人初の利酒師認定を受け、酒造の経営立て直しに大活躍した人物。日経ウーマンのウーマン・オブ・ザ・イヤー大賞も受賞し、メディアにもよく取り上げられる女性である。小さくても「小布施」が元気な理由は、垣根がなく、外界のエネルギーを自由に取り入れる、昔からの気質があるのではないだろうか。そのセーラ・マリ・カミングスさんは、2013年小布施堂から独立。現在は長野市若穂保科地区を新たな発信の場として活躍中。

さて、宿の話に戻るが、部屋は土蔵などを移築改装している為、とにかく窓が少なめ。その為、我々には暗くてたまらない。直接照明はなく間接照明で「ぼんやり」灯される部屋は、雰囲気はあるのだが、何かを読みたいという場合には不便きわまりない。大きな不満点のひとつだ。フローリングには床暖が入り、10月でも肌寒い夜には足元からリラックスできる。ベットはクィーンサイズの大型が2台入りゆったり。アメニティはロクシタン、バスローブ・パジャマもタオル類も不足なく用意されている。あとは着て食事に出かける事ができる作務衣などがあったならパーフェクトだ。旅館に着いたら、まずはお風呂。作務衣などでリラックスし、そのまま食事に出かけるというのが理想的と思っているので、食事に行くのに再び服を着るのは、リラックスが途切れてしまう気がするからだ。

部屋のデザインで、特筆はバスルーム。硬質アクリルで作られたバスタブは透明で、まるで金魚鉢の中でお風呂に入っている不思議な気分になる。湯量豊富なシャワーは2種類。洗面台は、無機質感のあるステンレス製である為、まるで理科の実験室のような感じ、廊下には壁一面に鏡が張られ、万華鏡の中にいるような気分になる。本当に「不思議空間」なのだ。我々の「普通頭」では思いもつかない建築家氏の、ぶっ飛んだ作品に脱帽であるが、リラックスできるかと問われれば、そうでもない。なぜなら「不思議体験」は最初は物珍しさも手伝って楽しいが、回を重ねれば珍しくもなくなり、より「くつろげる」空間が欲しくなるものだ。

こういう「突飛な」部屋作りは、一度きりのお客さんがターゲットのような気がする。

スタッフの方々は比較的若い人達が多い。以前は電話でも何でもきめ細かく「爽やかな対応」と思っていたのだが、ここのところ、あまり感心した態度を感じない。どうしたのだろう?

また昨年から大変残念なのは、我々が桝一客殿に泊まる理由の一つであった「蔵部(クラブ)」という食事処の夜の営業をしなくなった事だ。この蔵部は炭火での料理が美味く、雰囲気抜群で大のお気に入りであったのだが、経営的に夜まで営業できないのだろうか・・。その為、宿泊客は全員、夕食をとりたいのであれば「本店」と呼ばれるレストランでコースメニューを頂くことになる。コースは一種類の為、何かを選ぶことはできない。本店自体、綺麗な建物ではあるが味わいがなくつまらない。夜なのに、まるでランチを食べている錯覚に陥る。居酒屋のように、アラカルトで炭火で魚を焼いてもらっていた蔵部での夕食が懐かしい。なんとか復活してもらいたいものだ。小布施は昼間は人だらけではあるが、泊まる所ではなく、通り過ぎる所になってしまい、お客が夜までいない事が原因かもしれないと思う。店を閉める事で解決するのではなく、人を留まらせる事で解決してもらいたかった。今年は蔵部の夜営業再開を期待していたのだが、ならず・・・。何となく、小布施全体としての活気もここ数年「右肩下がり」のような感じがする。我々も「通り過ぎる客」にならざるを得ないかもしれないと思っている。

また来たい度:★★★(★5が満点)

インターネット:室内にて有線無線LAN両方可、利用無料、パスワードなし、PC貸し出し有り、携帯電話:docomoアンテナ5本 au アンテナ5本 /  e-mobile 5本/ テザリング良好